スタッフブログ

天売島で持続可能な暮らしのための森作り

2022.05.08

~間伐材の有効利用としての丸太小屋作り~

今回の目標、屋根までの施工完了です

天売島での活動に参加して6年目についてです。2021年は非常事態宣言下で中止になり、2年ぶりの活動です。1980年代までに燃料などとして天売島の自然林は沢沿いなど除き、伐採され尽くされたため、飲水の不足、鉄砲水などの被害が出るようになり、対策として植林が行われました。林業が殆どない島でカラマツ、トドマツを整然と密植していくものでした。30年がたち林間が込みすぎ日の当たらない森となってしまいました。

30年以上放置された人工林 暗い森で天然更新が進まない

そこで当時北大の森林の学生として参加した岡村敏邦近自然森つくり協会代表、吉井厚志みずみどり空間研究所代表が中心になって、10年ほど前から、この人工林を利用しながら多様性、持続性のある森に遷移することを目指すプロジェクトが始まりました。当初、島民の皆さんの理解を得るための、学校での環境教育事業、北海道留萌振興局への許認可など大変ご苦労されたようです。このプロジェクトに活動資金は公共から一切の活動費はなく、全て理解ある企業や個人からの募金で行われています。
 切り出された丸太は石山浩一さん(森林環境リアライズ)が中心の製材班により建設現場に必要な寸法など確認して加工されます。製材は切り出した現場に簡易製材機を運び、行われています。

 カラマツ、トドマツなどの人工林を選定し間伐し利用しながら、地面に日当ができることで周辺から飛んできた自然樹の種子が発芽するという自然の再生力を期待するものです。大型重機での伐採は林道も必要で、選んだ木の周辺の樹木や根まで傷をつけてしまいます。そこで選んだのは技術を持った人が伐採し、馬が運ぶ「ホースロギング」です。

質の良い樹木を育てるために障害になる木を伐採する。
伐採担当の西埜さん

 2016年私達が建築班として初参加するのと同時に西埜さんが馬を連れて参加し、本格的な森の整備がはじまりました。カップくんという馬は、ばんえい競馬の輓馬として育てられましたが、成績が振るわず肉馬としてせりに出されたところ西埜さんに拾われ命拾いしました。道産子などよりはるかに大きく、力持ちで、レースに向かなかった大人しい性格はホースロギングには良かったようです。

間伐された樹木を森から林道まで馬搬で運ぶ。木の根っこなど傷めない


 地域を活かした間伐材利用の提案を依頼された私(フーム)と松田博(サポートシステムマツダ)は薪のサウナ小屋を提案しました。間伐材が構造材から仕上材になり、さらに端材、その他の材料はサウナストーブの燃料になり、ほぼ完全に島で循環できるところに着眼しました。当時まだサウナブームはなくて、さらに薪のサウナはほとんどしられていない状態でしたが、メンバー全員の賛同を得られました。実際の施工は松田氏以外未経験者で、クレーンも足場もない状態のなかで、朝5時から、夕食後も現場に行き、帰りのフェリーの出港時間ギリギリまで作業するというハードなものでした。それでも春と秋の二回の遠征でなんとかサウナ利用ができるところまでこぎつけました。

クレーンやユニックなどないので、全て人力での作業となる。
棟が上がった状態。切り出されたばかりの丸太は想像より遥かに重い
とりあえずの完成時  集合写真

さらに翌年にはキャンプ場の炊事場の建設と、排水を垂れ流しするのではなく、手作りの浄化装置を制作しました。これは傾斜土槽法という生地正人さん(四電技術コンサルタント)が開発したもので、水の汚染の問題を抱えるアフリカや中東でも一部利用されている手法です。制作コストが極めて安く、DIYでもできてその汚染浄化効果はかなり高いものです。

次に建設されたキャンプ場の炊事場
排水の浄化のための傾斜土槽法の浄化システム

ここで大きな問題がおきました。私達がやっと留萌振興局の許可を得て毎年10立米ほど間伐伐採してきました。ところが、2019年私達が気が付かないうちに隣の人工林から1000立米のトドマツが伐採されました。それも重機による群状伐採で、残った木もいたるところで傷がつていました。治山事業の予算がおりたからだそうです。海鳥の生息地でもある小さな島での1000立米の伐採は皆伐に等しく、さらに建築では使いづらい寸法に切られ、木材の利用目的もなく澤地に数年放置されたあと、チップ材として運ばれたようです。

伐採作業でついた樹皮の傷、この程度でも菌が入りトドマツは枯れていく
留萌支庁によって伐採されたあと。この小さな島では皆伐に等しい。
伐採時に利用も考えす、山積みされた1000立米の丸太。長さ2.7メートルに切り揃えられたため、我々も利用できなかった。
最終的にチップとなって船で運ばれたようだ。縦割りで環境のことも、エネルギーのことも念頭にない行政の仕業。

カヤック小屋の建設

運よく夏の穏やかな日に島を訪れていると、シーカヤックでちょっとしたツアーが楽しめます。
現在カヤックの置き場がなく、不便を感じているということで、カヤック小屋の建設計画が始まりました。



その後、シーカヤックでのアクティビティーのために10艇あるカヤックの小屋の建設を開始することになりました。これまでのサウナ小屋、炊事場はそれぞれ4坪程度でしたが、今回の計画は一気に16坪の平屋とDIYレベルではなくなり、施工レベルが求められます。基本の考え方は変わりませんが、大量に使う登梁は道内でホースロギングにより切り出されたものも使用することになりました。初年度は柱立て、翌年は屋根まで施工予定でしたが、新型コロナによる緊急事態となり、2022年に延期再開となりました。

掘建ての工法で、垂直を取るため各方向から垂直を調整している。
2020年まずは柱立て




2022年 コロナで中断していたカヤック小屋建設が再開されます。工事遅れと相変わらずクレーンなど建設機械がないなか目標達成するには、本格的な施工技術を持つ人が松田さん一人というのは心もとないということで、電気通信工事技術者で大工工事などマルチに仕事ができる大和さんとその友人で万能な大工の佐々木さんを助っ人として誘いました。またフームのスタッフ山端くんと元スタッフの佃くんが参加してなかなかの活躍ぶり。さらに今回は参加できませんでしたが、製材担当として厚真の中川さん(木の種舎)が事前に精度の良い梁材を準備してくれたこともあり、彼らの活躍のお陰でこれまでにない高精度の棟上げ、屋根工事まで余裕を持って成し遂げることができました。