考え方

高性能な住宅で、本当に省エネになったのか

Replan北海道vol.76掲載(2007年)
photo. osamu adachi

過去のエネルギー問題による地球規模汚染事故に衝撃を受けて以来、そして独立して10数年、常に高い省エネルギー性と住環境を求めて設計に取り組んできたつもりである。確かに建物本体の熱損失は年々減少し、住環境も改善されてきた。しかし現実は、はなはだ疑問である。

栗沢の家で行ったこと

今回は栗沢でワイン用ブドウ農家を営む中澤さんのお宅を例に話を進めていきたい。

100年以上昔、幌向で原生のナラやカバ、タモ、カツラといった材木で建てられた開拓農家住宅が4年前解体されることになった。再生に取り組む工務店の計らいで古材を入手し、新たな開墾のため関東から移住した夫婦のもとで生まれ変わることになった。そこで主要構造部は極力そのままの骨組みを生かし丸ごと再生すること、普段設計している新築と同レベルの熱損失と温熱環境を実現することを前提として設計を進めた。

いつもの話であるが床・壁・屋根・窓・開口部・換気から逃げるエネルギー量と、かけるコスト配分を考慮する。まず断熱についての弱点となる開口部にトリプルLow-Eガラス内蔵の木製サッシュを使用し、気密についてはディテールの設計から現場の施工指導に至るまで徹底することにより、0.6㎠/㎡以下の高い値で安定させる。

住環境上重要な計画換気については煙突型排気塔を使い、空間の一番高い屋根から排気する温度差を利用した第3種換気を施工している。この方法はとても有効で、14Wクラスの省電力、低騒音のファン1台で、かなりの規模の住宅まで24時間換気できる。ここで強調したいのは、換気システムという機械をつけたから良いわけではなく、室内の空気がゆっくりと澱みなく入れ換わって初めて良い住環境が実現するわけで、機械より計画そのものが重要だということである。

余談であるが、気密・断熱性がある程度高い住宅の場合、換気によって捨てられる熱の比率がとても高くなる。この熱を回収しようというのが熱交換換気システム(第1種)ということになる。確かに数字的にはエネルギーをセーブできるが、ダクトを使って吸気することの衛生面、澱みの起きない換気ルートの難しさ、定期的なフィルターのメンテナンスなどの心配がある。また消費電力や騒音のことを考えると、冬季間以外はスイッチを切るか送風に切り替えるのかなど、不明な部分もある。あくまでも私の個人的な判断として聞き流していただきたいが、現時点において我が事務所では採用していない。

暖房は温水パネルによるセントラルヒーティングである。弱点である開口部を徹底的にガードするようなパネルレイアウトとすることで、ダウンドラフトを防ぎ、室温以上に体感温度の低下を防ぐよう配慮した。温かい寒いといった感覚は室温ではなく体感温度によるので、同じ温度でも快適さはかなり違ってくる。また、燃料消費の無駄を減らすよう室内全体の温度が足りた時点で、ボイラー本体が停止する代表サーモスイッチを設置した。その他では、平面計画的には1階南面に土間を配置して、冬季間日射による蓄熱がある程度できるよう配慮した。

このようにして完成し、引き渡して2年が過ぎた。骨太の雑木で組まれた構造はいつ見ても魅力的である。それを見るにつけ、同様の多くの民家がゴミと化したことを残念に思う。

Tシャツ・短パン・素足の生活

さてその後の中澤家の生活だが、室温は18℃で設定されていた。現実には日射や生活発熱で室温はもう少し高いようだが、夫妻は決してTシャツ、短パンでビールというような生活を望んでいない。当たり前の話であるが、冬はしっかり暖かな服装で、また各ペンダント照明には手元スイッチが付いていて必要な箇所のみ点けて暮らす。中澤家のブドウ農園は2.4ha、2002年にゼロからスタートし、ご夫婦と友人たちの協力で毎年数千本ずつ苗を植えて今日に至った。除草剤、化学肥料はいっさい使わず、化学農薬も全廃を目指してブドウ作りに取り組んでいる。そのため多くの手間をかけ、困難に何度もぶつかりながら質の高いワインを作るためのブドウ作りに取り組んでいる。

最大の疑問は、高性能な住宅ができ、そこで暮らし、省エネルギーになったのかということである。家中の室温を24℃や25℃に上げて、Tシャツ、短パンに裸足でくつろぐ生活が簡単にできてしまう。家の中のあちらこちらでお湯が出て、テレビも冷蔵庫も次々大型化され、増加。食洗機をビルトインし、ロードヒーティングで除雪のいらないアプローチを通って、RVやミニバンで大量の食品を買いにお出かけする。夏も数日間の暑さにエアコンを入れてしまえば快適だ。結局、いままでより遥かにエネルギーを消費しているが、それでどれだけ幸せになったのだろう。我々の理想郷は、1人当たり世界一の二酸化炭素を排出している暮らしなのだろうか。その生活を守るために国際的な議定書にそむき、桁違いに少ないエネルギーでの暮らしを爆撃して何とも思わないようになっていくのだろうか。所詮科学や技術がどれだけ進歩しても結局使うのは人間であり、人間次第でどうにでも転がるのである。「燃費のいい生活」を心がけたい。

Nakazawa Vineyard

本州から北海道に移住し、ワイン製造会社に勤めた後、5年前に自分たちの畑を開き、ワイン用のブドウ栽培を行っている中澤夫妻。今年いよいよワインを出荷するという夫妻の住まいは、築100年を超える古民家の骨組みをそのまま生かして2年前に建てられた。玄関から広々とした土間に足を踏み入れ、続く広間に目を移せば、柱梁の架構がダイナミックに展開する。1階のダイニング・キッチンおよび広間と2階小屋裏は吹き抜けでつながった一体空間。昔の民家のイメージをもってすれば寒々しいところだろうが、そこは現代の性能を持たせて再生された住宅。室温設定18℃。暑すぎることもなく、身体にもやさしげな暖かさがオープンな空間を満たしている。

北海道岩見沢市/Nakazawa Vineyard
北海道岩見沢市/Nakazawa Vineyard
ダイニングからはブドウ畑を一望。雪の季節もまた美しい。
ダイニングからはブドウ畑を一望。雪の季節もまた美しい
南側に設けたのは、中澤家の顔ともいえる玄関からつながる広い土間空間。<
南側に設けたのは、中澤家の顔ともいえる玄関からつながる広い土間空間
土間からダイニング方向。ほとんど仕切りのない開放的な空間に、古材と新しい部材が絶妙に混ざり合い、落ち着いた雰囲気をもたらす。
土間からダイニング方向。ほとんど仕切りのない開放的な空間に、古材と新しい部材が絶妙に混ざり合い、落ち着いた雰囲気をもたらす
アプローチの屋根には、光を通すポリカーボネイトを使用した。
アプローチの屋根には、光を通すポリカーボネイトを使用した
リビングからダイニング方向。上部の吹き抜けが空間をさらに広く見せる。
リビングからダイニング方向。上部の吹き抜けが空間をさらに広く見せる
落ち着いたトーンの室内で、ひときわ目を引くのが真白な階段。
落ち着いたトーンの室内で、ひときわ目を引くのが真白な階段
雄大な景色を楽しみながら、一日の疲れを癒す浴室。
雄大な景色を楽しみながら、一日の疲れを癒す浴室
以前の形状をそのまま生かし、現しにした小屋組。時を経てもその迫力は変わらず、力強い美しさ。
以前の形状をそのまま生かし、現しにした小屋組。時を経てもその迫力は変わらず、力強い美しさ