海鳥の楽園、天売島で考える森林環境とエネルギー

2018.10.10

北海道羽幌町の西側に浮かぶ天売島は絶滅危惧種のオロロン鳥やウトウなど海鳥の楽園として、野鳥愛好家によく知られています。この島は1970年までに燃料や材木の切り出しで自然林がほぼ切り倒され、井戸水は枯れ、大雨による表土の流出、漁業にも悪影響が出て1970年代後半に植樹が行われ、深井戸の再整備も進み環境はある程度改善されました。しかし当時 密に植えたトドマツやグイマツの単層林は手入れも、利用もされずに2017年まで放置されていました。
 そこで近自然森つくり協会の代表、岡村氏、森林環境の専門家、元寒地土木研の吉井氏が中心となり単層林を持続可能な森(近自然型森つくり)に誘導する活動を立ち上げ、私も間伐材利用の観点から参加することになりました。岡村氏は70年代林学の学生の時に植樹に参加していた一人でしたが、その植樹に対して疑問を持っていました。

密に植えられたまま40年以上放置されたトドマツの単層林
下草に光が届かず、森が更新されない。この森のカラマツを、陽や風通しなど考慮しながら、保存木と伐採木を選ぶ

この単層林を間引きしながら、自生種の広葉樹が混ざる多様性を持った森に誘導する活動です。そのために広葉樹の種が発芽できる光が足元に届く環境を作ります。これまで重機を入れて伐採搬出するために林道を作ったり、機械が入りやすいところを列状に伐採してしまい、目指す森にはなりません。そこで馬を使った林業を目指している厚真の西埜さんに参加してもらいました。西埜さんが伐採し馬で道のないところを引っ張り出します。
すると足元の土にも、残す木もほぼ傷めずに搬出することができます。

おとなしい性格で、ばんえい競馬の馬になれず、肉になるところを西埜さんが、購入して馬搬の馬として育てたカップ君
とても体格が良く、力持ちです。西埜さんが伐倒した丸太を引きずり林道まで運び出します。

こうして間引きされたカラマツの利用方法として大きく二つが考えられます。
①燃料としての活用
 人工林の成長率5㎥/㏊。天売島の人工林全体の成長率の2割程度間伐すると約190㎥/年間伐材が発生することになります。そのうち薪として150㎥、60t生産すると、薪1㎥あたり約1500Kwhのエネルギーが発生します。灯油換算150㍑/㎥、150㎥×150㍑=22500㍑分のエネルギーを供給できることになります。この分のエネルギーを自給できることになります。
②建材としての利用
製材所、乾燥設備を持たぬ島での提案として、丸太のままの有効利用と簡易製材機による最小限の加工を考えました。そこで丸太を主とした構造材で、工具もチェーンソー、丸鋸、インパクトドライバー程度で製作できる施設としてサウナ小屋を提案しました。

簡易製材機による製材の様子 なかなか精度が出ずに苦闘しているようです。

エネルギー自給率100%のサウナ小屋

丸太組のサウナ小屋の断面図 島以外の資材を最小限にする意図もあり新建材などを使わず、コンクリート基礎もない掘立の構造としました。サウナストーブだけはフィンランド製の薪サウナストーブです。

建設資材は断熱材や防水材、釘など以外は切り出したトドマツです。一番のポイントは、サウナの燃料になる薪も間伐材で供給できるということです。エネルギー自給率100%ということになります。
現場にはクレーンなどありませんから頭をつかって工夫します。大梁の丸太はロープをかけて片側から2人で吊り上げ、おしりを二人で押しあげる。これを繰り返し4本の小梁の上を渡していく。

このように多くの協力者とともにサウナ小屋を完成させました。引き続きキャンプ場の炊事場、シーカヤックツーリングのアクティビティーに向けたカヤック小屋の建設に向けてプロジェクトが進みます。
改めて環境と自然エネルギーについて考えてみましょう。その地域にある資源や環境を有効に生かすこと。地域の中で資源的にも経済的にも循環できる可能性を探ることがまず必要ではないでしょうか。もう一つ大切なこと「自然エネルギー」という言葉はたびたび出てきますが「発電」とは言っていません。熱エネルギーは熱のまま使うことが最も効率よいということです。

何とか完成したサウナ小屋。外装材も簡易製材機で製材した板の耳の部分を張って完成させました。屋根は防水ルーフィング材の上からさらに板を保護剤として張った。